「西洋美術の歴史」要約メモ #1 第1巻1~3章
歴史を知ることは,現在を知ることである。今年は美術の歴史を軸として,古代から現代までの流れを押さえておきたい。
#1では1巻の第1~3章までを扱う。
第1巻の概要
紹介する本:西洋美術の歴史 1古代
読了日:2019/01/18
レビュー:1~3章が主に古代ギリシア,4,5章が古代ローマ,6章に東方について,美術史として概説される。/古代ギリシアの人体表現の変化が面白い。エジプトとの交易による筋肉表現の学習,人体を数値で表すカノン理論,などなど。クラシック’時代とヘレニズム時代の比較も重要。/古代ローマの美術は政治との関わりが深い。先代皇帝との決別が美術様式に滲み出る例は枚挙にいとまがない。/東方世界については仏教が一番の鍵らしい。著者らは東西の相互作用を重視する。
目次:
序章 エーゲ海文明の記憶
第1章 ギリシア美術の曙
1 美術様式と時代
2 神々を祀る
3 絵画の始まり
4 神話を眺める
5 生けるが如く
第2章 ギリシア美術の栄華
1 アテネにおける政治と美術
2 信仰のかたち
3 カノンの美と感覚の美
4 人々の生活と美術
5 周辺地域とギリシア美術
第3章 ギリシア美術の変容
1 マケドニアの美術
2 アレクサンドロスの後継者たち
3 ペルガモンの美術
4 ヘレニズム時代の神域と礼拝像
5 美術の多様化と国際化
第4章 帝国美術の形成
2 ローマ人の肖像彫刻
3 アウグストゥスとローマ
4 皇帝と大衆
5 私邸と壁画
第5章 帝国美術の拡大と変容
1 戦争と歴史浮彫
2 娯楽と美術
3 古代ローマの葬礼美術
4 古代末期の皇帝美術
5 キリスト教時代の「異端」美術
第6章 東方のヘレニズム美術
1 ヘレニズムの定義とアレクサンドロス大王東征の意味
2 イランにおけるヘレニズム美術
3 中央ユーラシアにおけるヘレニズム美術
4 ガンダーラ地方
5 ギリシア美術と中国
第1章 ギリシア美術の曙
陶器の変化をもって,原幾何学様式時代→幾何学様式時代→東方化様式時代と区分される.その背景には政治や交易の変化がある.
彫刻における人体変化からも時代の変化を読み取ることができる.例えば「スーニオンのクーロス」からはエジプトから身体の寸法を学んだ形式が見られ,「アナヴィソスのクーロス」では筋肉表現の発展が見られる.
古代ギリシアではしばしばギリシア神話をモチーフとする作品が認められる.特に「エレウシスのアンフォラ」「ポリュフェモスの目潰しの場面」など,初期は怪獣退治の場面が好まれた.
第2章 ギリシア美術の栄華
前6世紀なかばから後半のアテネは,貴族政→僭主政→民主政と政治体制の変化の激しい時代であった.民主政の英雄表現として,突出した個人を示すのは政体と合わないので,「僭主殺害者像」のような僭主政打倒という形で民主政樹立を示した.
パルテノンは代表的な神殿であるが,以下の点で異例ずくめであった.8本のほっそりした円柱,イオニア式特有のフリーズ浮彫,神室にあたる部分が東西で分けられている.
エレシウスの密儀はテスクリオンを中心とする,公の場から離れた空間であった.その様子は「ニンニオン奉納陶板画」などに表れている.
クラシック時代は人体表現の発展が著しかった.「円盤投げ」は初期の作品であり,リアルな人体を追求した代表例である.盛期の例は,ポリュクレイトスのカノン理論を体現した「槍を持つ人」である.人体を数値で表そうとした点で重要な作品である.カノンはリュシッポスにより刷新され,「ダオコス奉納群像のアギアス像」にそれは表れている.
第3章 ギリシア美術の変容
アレクサンドロス大王の死によりクラシック時代が終わり,ヘレニズム時代の始まりを告げることとなる.この時代の皇帝は権威づけのために,没したアレクサンドロス大王を利用したり,自らの肖像を刻んだ貨幣を作成したりした.
クラシック時代まで,神域といえばオリュンピアやデルフォイであったのが,ヘレニズム時代ではサモトラケ島などより東の神域に注目されるようになる.そこに鎮座する「サモトラケのニケ」は,頭部なき今なお傑作と名高い.著者の評『現実の風が大理石で暗示される風の動きをなぞり,実際の水しぶきとともに彫像の船の動きを見る者に体感されたに違いない.』
人体表現について,クラシック時代までは理想的な身体の表現が中心課題であった.それがヘレニズム時代となると,子供赤ん坊を愛くるしい存在として魅力を表現(例:眠るエロス)したり,醜悪な老人を表現(例:酔った老女)したりと変化する.
女性像の変化もまた著しい.クラシック時代までは裸体とはいえ女神としての気品と威厳を示していたものが(例:クニドスのアフロディテ),ヘレニズム時代には扇情的なポーズの試みがなられるようになる(例:メディチ家のヴィーナス,うずくまるアフロディテ).この頃から官能性の追求に芸術家を走らせることとなる.
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