傷寒論と現代漢方との比較 #2 太陽病上
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#2から本文の解説に移る。辨太陽病脈證并治法上より,太陽病特に中風について扱う。
太陽病について
1 太陽之為病,脈浮,頭項強痛而惡寒。
太陽病の定義。 指を軽く当てて触れる脈,頭痛,うなじのこわばり,悪寒が見られる。
2 太陽病,發熱,汗出,惡風,脈緩者,名為中風。
3 太陽病,或已發熱,或未發熱,必惡寒,體痛,嘔逆,脈陰陽俱緊者,名曰傷寒。
解説
太陽病は細かく「中風」と「傷寒」に分類される。
中風:発熱,汗が出る,悪風(悪寒より軽い),脈が緩
傷寒:悪寒,関節痛や筋肉痛,嘔気,脈が緊
太陽病上では中風,太陽病中では傷寒について論じられる。
桂枝湯について
桂枝湯
12 太陽中風,陽浮而陰弱,陽浮者熱自發,陰弱者汗自出,嗇嗇惡寒,淅淅惡風,翕翕發熱,鼻鳴乾嘔者,桂枝湯主之。
13 太陽病,頭痛 發熱,汗出 惡風者,桂枝湯主之。
桂枝湯方:桂枝三兩,去皮,味辛熱;芍藥三兩,味苦酸,微寒;甘草二兩,炙,味甘平;生薑三兩,切,味辛溫;大棗十二枚,擘,味甘溫。
成分・分量
- 桂皮 3-4
- 芍薬 3-4
- 大棗 3-4
- 生姜 1-1.5(ヒネショウガを使用する場合 3-4)
- 甘草 2
効能・効果
体力虚弱で、汗が出るものの次の症状: かぜの初期
解説
桂枝湯は傷寒論における基本となる処方である。 麻黄湯や葛根湯との鑑別として,汗が出るところが重要である。
15 太陽病,下之後,其氣上衝者,可與桂枝湯。方用前法。若不上衝者,不可與之。
16 太陽病三日,已發汗,若吐,若下,若溫鍼,仍不解者,此為壞病,桂枝不中與也。觀其脈證,知犯何逆,隨證治之。
17 桂枝本為解肌,若其人脈浮緊,發熱 汗不出者,不可與也。常須識此,勿令誤也。
24 太陽病,初服桂枝湯,反煩不解者,先刺風池、風府,卻與桂枝湯則愈。
解説
桂枝湯の適応について。まとめると以下のようになる。
- 瀉下した後,気が突き上げる(頭痛,めまい,吐き気など)ようなら桂枝湯を与える。
- 3日ほど経って,まだ症状が改善しないなら,桂枝湯を与えるべきでない。症状にあった処方をせよ。
- 脈が浮いていて,汗のない発熱は桂枝湯では改善できない(麻黄湯の適応)。
- 桂枝湯で改善できるはずなのに,かえって安静にならない場合は,重ねて桂枝湯を与える(瞑眩)。
桂枝湯の類方
桂枝加葛根湯
14 太陽病,項背強几几,反汗出 惡風者,桂枝加葛根湯主之。
成分・分量
- 桂皮 2.4-4
- 芍薬 2.4-4
- 大棗 2.4-4
- 生姜 1-1.5(ヒネショウガを使用する場合 2.4-4)
- 甘草 1.6-2
- 葛根 3.2-6
効能・効果
体力中等度以下で、汗が出て、肩こりや頭痛のあるものの次の症状:かぜの初期
解説
桂枝湯に葛根を加えた処方である。葛根は肩こりや頭痛に効果があるとされる。 葛根湯との違いは麻黄が入っているかどうかで,発汗作用の強い麻黄がないので汗が出ているときに適応する。
桂麻各半湯
23 太陽病,得之八九日,如瘧狀,發熱惡寒,熱多寒少,其人不嘔,清便欲自可,一日二三度發。(中略)宜桂枝麻黃各半湯。
成分・分量
- 桂皮 3.5
- 芍薬 2
- 生姜 0.5-1(ヒネショウガを使用する場合 2)
- 甘草 2
- 麻黄 2
- 大棗 2
- 杏仁 2.5
効能・効果
体力中等度又はやや虚弱なものの次の諸症: 感冒、せき、かゆみ
解説
桂枝湯と麻黄湯との合方。中風と傷寒の中間ぐらいの症状に適応。瘧とは発熱と悪寒を繰り返す疾患(例:マラリア)である。
白虎加人参湯
26 服桂枝湯,大汗出後,大煩渴不解,脈洪大者,白虎加人參湯主之。
成分・分量
- 知母 5-6
- 石膏 15-16
- 甘草 2
- 粳米 8-20
- 人参 1.5-3
効能・効果
体力中等度以上で、熱感と口渇が強いものの次の諸症: のどの渇き、ほてり、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみ
解説
桂枝湯により発汗したが,裏熱を伴う陽明病に進行したときの処方。
桂枝二越婢一湯
27 太陽病,發熱惡寒,熱多寒少,脈微弱者,此無陽也,不可更汗,宜桂枝二越婢一湯方。
成分・分量
- 桂皮 2.5-3.5
- 芍薬 2.5-3.5
- 麻黄 2.5-3.5
- 甘草 2.5-3.5
- 大棗 3-4
- 石膏 3-8
- 生姜 1(ヒネショウガを使用する場合 2.8-3.5)
効能・効果
体力中等度で、のどが渇き、汗が出るものの次の諸症: 感冒、頭痛、腰痛、筋肉痛、関節のはれや痛み
解説
桂枝湯と越婢湯との合方。
傷寒への変化
29 傷寒脈浮,自汗出,小便數,心煩,微惡寒,腳攣急,反與桂枝湯,欲攻其表,此誤也。得之便厥,咽中乾,煩燥,吐逆者,作甘草乾薑湯與之,以復其陽。若厥愈足溫者,更作芍藥甘草湯與之,其腳即伸。若胃氣不和,讝語者,少與調胃承氣湯。若重發汗,復加燒鍼者,四逆湯主之。
解説
傷寒に進行した際に誤って桂枝湯を与えると,急に陰証に陥る危険がある。ここであげられた「甘草乾薑湯」「芍藥甘草湯」「調胃承氣湯」「四逆湯」についてはは後の章で解説される。
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