「入門・医療倫理Ⅱ」まとめ #4 法と倫理の狭間
「入門・医療倫理Ⅱ」
- 作者: 稲葉一人,蔵田伸雄,児玉聡,堂囿俊彦,奈良雅俊,林芳紀,水野俊誠,山崎康仕,赤林朗
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2007/04/10
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 27回
- この商品を含むブログ (22件) を見る
前回↓
#4では法と倫理の狭間について扱う。
権利論
権利という語は「請求権」「力」「自由」「免責」の意味をもつ。
自由権とは他者の干渉なしに自らのことを決定する権利であり,自己決定・自立およびプライバシー権などのもととなる。また,自由権には弱者が強者へ抵抗するための足がかりとしての意味もある。
社会権とは生活維持等の条件確保を国家に要求する権利であり,自由権と対の概念として発達した。
功利主義から権利を考えた場合,一次的なものは効用の概念であり,権利は二次的なものである。
対して権利論では,全体の利益の犠牲となる個人を保護する機能を重視する。ドゥウォーキンの市民的不服従がその代表例である。
問題点として
- 概念が曖昧である
- コンフリクトを解決できない
- 権利の主体はだれか
- 権利の放棄は可能か
- どこまでが権利か
などがある。
法と道徳
西欧では19世紀まで,自然に根拠をもつ普遍(不変)の規範である自然法が優位であった。しかし18世紀の啓蒙主義から,法と道徳の分離が唱えられるようになり,実定法一元主義により純粋な法実証主義(法・道徳分離論に基づく)が誕生した。対してイェリネックは「法は倫理の最小限」と主張した。やがて法・道徳分離論の限界から,フラーによる法内在道徳の主張や1980年代以降の共同体論など,法・道徳融合論が議論されるようになった。
ミルの他者危害原理やリーガル・モラリズムからは,不道徳を法で罰せられるかが議論される。
法と正義
正義は
- 適法的(法を守っているか)
- 形式的(等しいものは等しく扱う)
- 実質的(法の実質的な価値基準を示す)
- 配分的(利益の配分について)
- 交換的・匡正的(利益の調整について)
- 手続的(決定に至る過程について)
なものに大きく分けられる。
裁判官の判決は,法的思考を基本とする。その特徴として,
- 今ある法に準拠して事実に適用する
- 事実認定が不可欠である
- 過去の事例をもとに議論する
- 結果は全か無かの法則にしたがう
などがある。現実には法の想定外の事案も多いため,裁判官の衡平感覚に委ねられることとなる。
(終)