「入門・医療倫理Ⅱ」まとめ #3 メタ倫理学
「入門・医療倫理Ⅱ」
- 作者: 稲葉一人,蔵田伸雄,児玉聡,堂囿俊彦,奈良雅俊,林芳紀,水野俊誠,山崎康仕,赤林朗
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2007/04/10
- メディア: 単行本
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#3ではメタ倫理学について扱う。
実在論・認知主義
道徳的事実は客観的に存在し,道徳的信念はその道徳的事実を認知することで形成されるとする。
自然主義はムア*1により導入され,道徳的事実を道徳外の事実に還元できる「還元主義」を特徴とする。しかしムアの「自然主義的誤謬」により善の定義不可能性という形で批判される。
一方で非自然主義は「直観主義」を特徴としており,善の自明性を主張する。
問題点として
- 道徳的事実が自然的性質に基づくことはない
- 規範性の説明が困難である
- 自然主義的誤謬の見直し
などがある。
反実在論・非認知主義
反実在論では道徳の客観性や規範性は否定される。それよりも世界がどうあってほしいかという欲求の表明について議論される。
反実在論にはエアの情動説やスティーブンソンの情動説,ヘアの普遍的指令説がある。
エアは論理実証主義に基づき,道徳判断と事実判断は別のものであるとした。これにより道徳の規範性が説明できる反面,客観性は説明できない。
スティーブンソンはエアの理論に加えて,道徳判断の本質は記述的意味でなく情動的意味であるとして,情動説を発展させた。
ヘアは道徳判断が指令的意味を持つと主張した。更に事実判断と価値判断の間に成り立つ依存生起を論ずることでよりうまく客観性を説明した。
問題点として
- 相対主義に陥る
- 日常生活と乖離している
ことがあげられる。
現代のメタ倫理学
現代において,「客観性」「規範性」「ヒューム主義」のうちひとつを否定することで問題を解決する試みがなされている。その立場は「反実在論」「自然主義的実在論」「非自然主義的実在論」に分けられていることを上で見てきた。
マッキーの錯誤理論は反実在論に基づく説明である。
これを洗練させたのがブラックバーンの準実在論である。投影説の立場を受け入れながら,道徳的営みの多くは非認知主義的見方からでも説明可能であるとしている。
一方,マクダウエルは投影説を批判して,道徳的価値は二次性質として実在する感受性理論を展開した。
ムアによる自然主義的誤謬の問題を解決する試みに,ブリンクの認知主義的自然主義があげられる。ブリンクは,道徳的性質が還元可能である必要はなく,自然的性質に依存生起すればよいとした非還元主義を構築した。また,マッキーによる批判は内在主義的に過ぎないとして,自然主義者は外在主義を受け入れることができると主張した。
しかし,そもそも道徳的性質や道徳的実在の仮定は本当に必要なのだろうか?ハーマンは性質や実在は世界に不要であると主張した。対してスタージョンは道徳外的事実の理解には道徳的事実の仮定が必要であると主張した。
従来の非自然主義はヒューム主義に抵触する。
マクダウエルの混成理論は,有徳な人物の動機付けにおいてのみ純粋に認知的な仕方で動機付けられるとして,内在主義と認知主義を両立させた。
対してダンシーの純粋理論は,有徳のあるなしにかかわらず誰もが純粋に認知的な仕方で動機付けられるとした。純粋理論を構築する際,ヒューム主義を信念と欲求の役割と動機付けの様態から組み替えを行った。その帰結として,ダンシーはパティキュラリズムを提唱するに至った。
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