傷寒論と現代漢方との比較 #4 太陽病中(後半)
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#3と#4にかけて,辨太陽病脈證并治法中より太陽病特に傷寒について扱う。
四逆湯までの変化
五苓散
71 太陽病,發汗後,大汗出,胃中乾,煩燥不得眠,欲得飲水者,少少與飲之,令胃氣和則愈。若脈浮,小便不利,微熱 消渴者,與五苓散主之。
72 發汗已,脈浮數,煩渴者,五苓散主之。
五苓散方:豬苓十八銖,味甘平,去皮;澤瀉一兩六銖半,味酸醎;茯苓十八銖,味甘平;桂半兩,去皮,味辛熱;白朮十八銖,味甘平。
成分・分量
- 沢瀉 4-6
- 猪苓 3-4.5
- 茯苓 3-4.5
- 蒼朮 3-4.5(白朮も可)
- 桂皮 2-3
効能・効果
体力に関わらず使用でき、のどが渇いて尿量が少ないもので、めまい、はきけ、嘔吐、腹痛、頭痛、むくみなどのいずれかを伴う次の諸症: 水様性下痢、急性胃腸炎(しぶり腹注)のものには使用しないこと)、暑気あたり、頭痛、むくみ、二日酔
解説
水毒に対する代表的な処方。発汗している,脈が浮数,尿量減少,水を飲んでも渇きを感じる,微熱を発している(これは白虎湯との鑑別)ときに適応する。
作用メカニズムについて:
梔子豉湯
78 發汗吐下後,虛煩不得眠;若劇者,必反覆顛倒,心中懊憹,梔子豉湯主之。
80 發汗,若下之,而煩熱 胸中窒者,梔子豉湯主之。
81 傷寒五六日,大下之後,身熱不去,心中結痛者,未欲解也,梔子豉湯主之。
梔子豉湯方:梔子十四枚,擘,味苦寒;香豉四合,綿裹,味苦寒。
成分・分量
- 山梔子 1.4-3.2
- 香豉 2-9.5
効能・効果
体力中等度以下で、胸がふさがり苦しく、熱感があるものの次の諸症:不眠、口内炎、舌炎、咽喉炎、湿疹・皮膚炎
解説
発汗あるいは下した後に,熱感があり胸がふさがるものに適応する。
真武湯
85 太陽病發汗,汗出不解,其人仍發熱,心下悸,頭眩,身瞤動,振振欲擗地者,真武湯主之。
解説
太陽病を発汗した後に,発熱を残して少陰病に陥ったことを示す。詳細は少陰病にて説明する。
四逆湯への変化
94 傷寒醫下之,續得下利,清穀不止,身疼痛者,急當救裏;後身疼痛,清便自調者,急當救表。救裏宜四逆湯,救表宜桂枝湯。
95 病發熱,頭痛,脈反沉,若不差,身體疼痛,當救其裏,宜四逆湯。
解説
「先急後緩」を示す例。誤って下したところ,水様の下痢が止まらなくなった場合,すぐに裏を救わなければならない。四逆湯(厥陰病にて詳説)を用いる。その後身体の痛みが残る場合,表を救うのに桂枝湯を用いる。
小柴胡湯その他
99 傷寒五六日,中風,往來寒熱,胸脅苦滿,默默不欲飲食,心煩喜嘔,或胸中煩而不嘔,或渴,或腹中痛,或脅下痞硬,或心下悸,小便不利,或不渴,身有微熱,或欬者,與小柴胡湯主之。
103 傷寒四五日,身熱惡風,頸項強,脇下滿,手足溫而渴者,小柴胡湯主之。
小柴胡湯方:柴胡半斤,味苦,微寒;黃芩三兩,味苦寒;人參三兩,味甘溫;甘草三兩,味甘平;半夏半升,洗,味辛溫;生薑三兩,切,味辛溫;大棗十三枚,擘,味甘溫。
成分・分量
- 柴胡 5-8
- 半夏 3.5-8
- 生姜 1-2(ヒネショウガを使用する場合 3-4)
- 黄芩 2.5-3
- 大棗 2.5-3
- 人参 2.5-3
- 甘草 1-3
効能・効果
体力中等度で、ときに脇腹(腹)からみぞおちあたりにかけて苦しく、食欲不振や口の苦味があり、舌に白苔がつくものの次の諸症: 食欲不振、はきけ、胃炎、胃痛、胃腸虚弱、疲労感、かぜの後期の諸症状
解説
少陽病の代表的な処方。往熱寒来,胸脇苦満などが少陽病で見られる。特に柴胡が胸脇苦満を除く効果がある。ここでは太陽病からの変化として示される。
小柴胡湯の鑑別
37 太陽病,十日以去,脈浮細而嗜臥者,外已解也。設胸滿脅痛者,與小柴胡湯。脈但浮者,與麻黃湯。
解説
太陽病を発して10日以上経って,脈が浮細で疲労感があり胸満脇痛があるなら,小柴胡湯の適応となる。もし脈が浮なら麻黄湯の適応となる。
104 傷寒,陽脈澀,陰脈弦,法當腹中急痛者,先與小建中湯,不差者,與小柴胡湯主之。
107 傷寒二三日,心中悸而煩者,小建中湯主之。
小建中湯方:桂枝三兩,去皮,味辛熱;甘草三兩,炙,味甘平;大棗十二枚,擘,味甘溫;芍藥六兩,味酸,微寒;生薑三兩,切,味辛溫;膠飴一升,味甘溫。
成分・分量
効能・効果
体力虚弱で、疲労しやすく腹痛があり、血色がすぐれず、ときに動悸、手足のほてり、冷え、ねあせ、鼻血、頻尿および多尿などを伴うものの次の諸症: 小児虚弱体質、疲労倦怠、慢性胃腸炎、腹痛、神経質、小児夜 尿症、夜泣き
解説
急な腹痛や動悸に対しては,小建中湯が適応する。桂枝加芍薬湯に膠飴を加えた処方で,滋養強壮の作用もある。
大柴胡湯
108 太陽病,(中略)十餘日,反二三下之,後四五日,柴胡證仍在者,先與小柴胡湯。嘔不止,心下急,鬱鬱微煩者,為未解也,與大柴胡湯下之則愈。
大柴胡湯方:柴胡半斤,味甘平;黃芩三兩,味苦寒;芍藥三兩,味酸,微寒;半夏半升,洗,味辛溫;生薑五兩,切,味辛溫;枳實四枚,炙,味苦寒;大棗十二枚,擘,甘溫;大黃二兩,味苦寒。
成分・分量
- 柴胡 6-8
- 半夏 2.5-8
- 生姜 1-2(ヒネショウガを使用する場合4-5)
- 黄芩 3
- 芍薬 3
- 大棗 3-4
- 枳実 2-3
- 大黄 1-2
効能・効果
体力が充実して、脇腹からみぞおちあたりにかけて苦しく、便秘の傾向があるものの次の諸症:胃炎、常習便秘、高血圧や肥満に伴う肩こり・頭痛・便秘、神経症、肥満症
解説
小柴胡湯を与えても鬱々として煩悶する場合,より強い薬効のある大柴胡湯が適応する。小柴胡湯から人参,甘草を除き,芍薬,枳実,大黄を加えた処方。
桃核承気湯
111 太陽病不解,熱結膀胱,其人如狂,血自下,下者愈。其外不解者,尚未可攻,當先解外。外解已,但少腹急結者,(中略)宜桃核承氣湯方。
桃核承氣湯方:桃人五十箇,去皮尖,味甘平;桂枝二兩,去皮,味辛熱;大黃四兩;芒硝二兩;甘草二兩,炙。
成分・分量
- 桃仁 5
- 桂皮 4
- 大黄 3
- 芒硝 2
- 甘草 1.5
効能・効果
体力中等度以上で、のぼせて便秘しがちなものの次の諸症: 月経不順、月経困難症、月経痛、月経時や産後の精神不安、腰痛、便秘、高血圧の随伴症状(頭痛、めまい、肩こり)、痔疾、 打撲症
解説
代表的な駆瘀血剤の一つ。桃仁は下腹部の瘀血を除く効果があり,下腹部に結実した熱邪を払う。
112 傷寒八九日,下之,胸滿煩驚,小便不利,讝語,一身盡重,不可轉側者,柴胡加龍骨牡蠣湯主之。
柴胡加龍骨牡蠣湯方:半夏二合,洗;大棗六枚;柴胡四兩;生薑一兩半;人參一兩半;龍骨一兩半;鈆丹一兩半;桂枝一兩半,去皮;茯苓一兩半;大黃二兩;牡蠣一兩半,煅。
成分・分量
- 柴胡 5
- 半夏 4
- 茯苓 3
- 桂皮 3
- 大棗 2.5
- 人参 2.5
- 竜骨 2.5
- 牡蛎 2.5
- 生姜 0.5-1
- 大黄 1
- 黄芩 2.5
- 甘草 2 以内
※(大黄、 黄芩、甘草のない場合も可)
効能・効果
体力中等度以上で、精神不安があって、動悸、不眠、便秘など を伴う次の諸症: 高血圧の随伴症状(動悸、不安、不眠)、神経症、更年期神経症、 小児夜泣き、便秘
解説
鎮静作用のある竜骨と牡蛎が加わり,特に精神症状が著しい場合に適する。
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