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金匱要略と現代漢方との比較 #5 第8章 奔肫氣病脈證治,第9章 胸痺心痛短氣病脈證治,第10章 腹滿寒疝宿食病脈證治

 

第8章 奔肫氣病脈證治

状態

師曰:病有奔豚,有吐膿,有驚怖,有火邪,此四部病,皆從驚發得之。師曰:奔豚病從小腹起,上衝咽喉,發作欲死,復還止,皆從驚恐得之。

不安や恐怖感により肝や腎が傷害され,咽喉に突き上げる発作や吐血,過度の興奮などを示す。

 

薬方

奔豚湯(金匱要略)

奔豚氣上衝胸,腹痛,往來寒熱,奔豚湯主之。

奔豚湯方:甘草、芎藭、當歸各二兩,半夏四兩,黃芩二兩,生葛五兩,芍藥二兩,生姜四兩,甘李根白皮一升。

右九味,以水二斗,煮取五升,溫服一升,日三夜一服。

成分・分量

  • 甘草 2
  • 川芎 2
  • 当帰 2
  • 半夏 4
  • 黄芩 2
  • 葛根 5
  • 芍薬 2
  • 生姜1-1.5(ヒネショウガを使用する場合 4)
  • 李根白皮 5-8(桑白皮でも可)

効能・効果

体力中等度で、下腹部から動悸が胸やのどに突き上げる感じがするものの次の諸症:発作性の動悸、不安神経症

解説

ここでの奔豚は少陽病と結びついており,少陽胆経の経脈が塞がれたために起こる。李根白皮は清熱・降気作用をもつ。

 

苓桂甘棗湯

發汗後,臍下悸者,欲作賁豚,茯苓桂枝甘草大棗湯主之。

茯苓桂枝甘草大棗湯方:茯苓半斤;甘草二兩,炙;大棗十五枚;桂枝四兩。

右四味,以甘爛水一斗,先煮茯苓,減二升,內諸藥,煮取三升,去滓,溫服一升,日三服。

成分・分量

  • 茯苓 4-8
  • 桂皮 4
  • 大棗 4
  • 甘草 2-3

効能・効果

体力中等度以下で、のぼせや動悸があり神経がたかぶるものの次の諸症:動悸、精神不安 解説 誤った発汗により津液消耗して,病変が裏に及び下腹部に循環悪化がみられる症状を指す。

 

第9章 胸痺心痛短氣病脈證治

胸痺

状態

師曰:夫脈當取太過不及,陽微陰弦,即胸痺而痛,所以然者,責其極虛也。今陽虛知在上焦,所以胸痺心痛者,以其陰弦故也。平人無寒熱,短氣不足以息者,實也。

胸部がつまった感じ,締め付けられるような痛みを特徴とする。現代でいう狭心症心筋梗塞に該当すると考えられる。

 

薬方

人参湯(理中丸)

胸痺心中痞留,氣結在胸,胸滿,脅下逆槍心,枳實薤白桂枝湯主之,人參湯亦主之。

人參湯方:人參、甘草、乾姜、白朮各三兩。

右四味,以水八升,煮取三升,溫服一升,日三服。

成分・分量

  • 人参 3
  • 甘草 3
  • 白朮 3(蒼朮も可)
  • 乾姜 2-3

用法・用量

(1)散:1 回 2-3g 1 日 3 回

(2)湯

効能・効果

体力虚弱で、疲れやすくて手足などが冷えやすいものの次の諸症:胃腸虚弱、下痢、嘔吐、胃痛、腹痛、急・慢性胃炎

解説

心における瘀血により心中に痞えが生じた状態に適応する。人参湯は虚証に対して補中益気することで陽気を回復させる。

 

茯苓杏仁甘草湯

胸痺,胸中氣寒,短氣,茯苓杏仁甘草湯主之,橘枳姜湯亦主之。

茯苓杏仁甘草湯方:茯苓三兩,杏仁五十箇,甘草一兩。

右三味,以水一斗,煮取五升,溫服一升,日三服,不差更服。

成分・分量

  • 茯苓 3-6
  • 杏仁 2-4
  • 甘草 1-2

効能・効果

体力中等度以下で、胸につかえがあるものの次の諸症:息切れ、胸の痛み、気管支ぜんそく、せき、動悸

解説

肺気が塞がることで上逆が起こり,ぜんそくや痛みが生じた状態に適応する。茯苓は水湿を除き,杏仁は気を降ろし鎮咳去痰し,甘草は補中益気にはたらく。

 

第10章 腹滿寒疝宿食病脈證治

腹満

状態

趺陽脈微弦,法當腹滿,不滿者必便難,兩胠疼痛,此虛寒從下上也,當以溫藥服之。

趺陽脈から脾胃の状態をうかがうことができ,微弦であれば脾胃が虚している,つまり消化機能が低下しているといえる。すると便秘になりやすくなり痛みを生じる。

 

薬方

附子粳米湯

腹中寒氣,雷鳴切痛,胸脅逆滿,嘔吐,附子粳米湯主之。

附子粳米湯方:附子一枚,炮;半夏半升;甘草一兩,大棗十枚,粳米半升。

右五味,以水八升,煮米熟湯成,去滓,溫服一升,日三服。

成分・分量

  • 加工ブシ 0.3-1.5
  • 半夏 5-8
  • 大棗 2.5-3
  • 甘草 1-2.5
  • 粳米 6-8

効能・効果

体力虚弱で、腹部が冷えて痛み、腹が鳴るものの次の諸症:胃痛、腹痛、嘔吐、急性胃腸炎

解説

既に腹部に裏寒があるときに寒邪が加わると,気血が滞り通じたときに痛みを生じる。さらに胃の和降機能低下により嘔吐も伴う。これに対し,附子の散寒作用,半夏の燥湿化痰,その他の補脾作用により改善する。

 

大柴胡湯

按之心下滿痛者,此為實也,當下之,宜大柴胡湯主之。

大柴胡湯方:柴胡半斤;黃芩三兩;芍藥二兩;半夏半升,洗;枳實四枚,;大棗二兩;大棗十二枚;生姜五兩。

右八味,以水一斗二升,煮取六升,去滓,再煎,溫服一升,日三服。

成分・分量

  • 柴胡 6-8
  • 半夏 2.5-8
  • 生姜 1-2(ヒネショウガを使用する場合4-5)
  • 黄芩 3
  • 芍薬 3
  • 大棗 3-4
  • 枳実 2-3
  • 大黄 1-2

効能・効果

体力が充実して、脇腹からみぞおちあたりにかけて苦しく、便秘の傾向があるものの次の諸症:胃炎、常習便秘、高血圧や肥満に伴う肩こり・頭痛・便秘、神経症、肥満症

解説

胸脇苦満や気鬱化火などが症状の特徴であり,裏熱実証をともなう少陽病に適応する。主な生薬として,柴胡は肝の鬱結を除き,黄芩は清熱燥湿にはたらく。

 

大承気湯(第2章で解説済)

 

大建中湯

心胸中大寒痛,嘔不能飲食,腹中寒,上衝皮起,出見有頭足,上下痛而不可觸近,宜用後湯。

大建中湯方:蜀椒二合,汁;乾姜四兩;人參二兩。

右三味,以水四升,煮取二升,去滓,內膠飴一升,微火煎取一升半,分溫再服;如一炊頃,可飲粥二升,後更服,當一日食糜,溫覆之。

成分・分量

  • 山椒 1-2
  • 人参 2-3
  • 乾姜 3-5
  • 膠飴 20-64

効能・効果

体力虚弱で、腹が冷えて痛むものの次の諸症:下腹部痛、腹部膨満感

解説

冷えを伴う腹痛に,温性(山椒・乾姜)と補気(人参・膠飴)の生薬構成により対応する。

 

大黄附子湯

脅下偏痛,發熱,其脈緊弦,此寒也,以溫藥下之,宜用後湯。

大黃附子湯方:大黃三兩;附子三枚,炮;細辛二兩。

右三味,以水五升,煮取二升,分溫三服;若強人煮取二升半,分溫三服。服後如人行四五里,進一服。

成分・分量

  • 大黄 1-3
  • 加工ブシ 0.2-1.5
  • 細辛 2-3

効能・効果

体力中等度以下で、冷えて、ときに便秘するものの次の諸症:腹痛、神経痛、便秘

解説

発熱しているが寒気が強く肝・胆障害を伴っている状態に適応する。ここでの大黄は寒積を除くために用いられ,虚証の悪化を防ぐために附子と併用する。

 

寒疝

状態

腹痛,脈弦而緊,弦則衛氣不行,即惡寒;緊則不欲食,邪正相搏,即為寒疝。

寒疝とは風邪の侵入に対する過剰反応により痛みを生じる状態を指す。附子や烏頭を含む薬方により対応する。

 

薬方

柴胡桂枝湯

《外臺》柴胡桂湯方:治心腹卒中痛者。

柴胡四兩,黃芩、人參、芍藥、桂枝、生姜各一兩半,甘草一兩,半夏二合,大棗六枚。

右九味,以水六升,煮取三升,溫服一升,日三服。

成分・分量

  • 柴胡 4-5
  • 半夏 4
  • 桂皮 1.5-2.5
  • 芍薬 1.5-2.5
  • 黄芩 1.5-2
  • 人参 1.5-2
  • 大棗 1.5-2
  • 甘草 1-1.5
  • 生姜 1(ヒネショウガを 使用する場合 2)

効能・効果

体力中等度又はやや虚弱で、多くは腹痛を伴い、ときに微熱・ 寒気・頭痛・はきけなどのあるものの次の諸症:胃腸炎、かぜの中期から後期の症状

解説

小柴胡湯と桂枝湯の合剤であり,作用は小柴胡湯より穏和である。

 

宿食

状態

問曰:人病有宿食,何以別之?師曰:寸口脈浮而大,按之及濇,尺中亦微而濇,故知有宿食,大承氣湯主之。

宿食とは,消化不良により食物が停滞する状態を指す。この場合,多くは大承気湯の適応である。

 

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