「入門・医療倫理Ⅱ」まとめ #2 規範倫理学
「入門・医療倫理Ⅱ」
- 作者: 稲葉一人,蔵田伸雄,児玉聡,堂囿俊彦,奈良雅俊,林芳紀,水野俊誠,山崎康仕,赤林朗
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2007/04/10
- メディア: 単行本
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前回↓
#2では規範倫理学について扱う。
功利主義
功利主義はベンサムにより提唱され,最大幸福をもたらすものを道徳的に正しいものとみなす理論として基礎付けられる。
善の理論としてみると,福利主義として特徴付けられる。功利主義は最大幸福の考え方により,量的快楽説,質的快楽説,選好充足説に分けられる。量的快楽説は主にベンサムによるもので,快楽・苦痛を量的に計算可能であるとする。一方でJ.S.ミルによる質的快楽説は量的には計算しきれないとする。選好充足説では快楽計算でなく,選好の充足から幸福を論じた。
正の理論としてみると,行為の結果により正かどうか判断する帰結主義と帰結の良し悪しを効用最大化により判定する総和主義によって特徴づけられる。
功利主義は整合性に優れ,行為や政策に反映しやすい長所がある反面,問題点として,
などが挙げられる。
これに対し,批判の多くは現実に即していない,批判に対応して功利主義を修正する,むしろ常識や直観を修正する,などで批判に応じている。
義務論
義務論では帰結を問わずに従うべき義務があることを主張する。
義務論では,義務論的制約と義務論的特権に行為を分類する。義務論的制約の考慮は,帰結の善悪の考慮に先立つ。義務論的制約の原型としては,カントによる「普遍的法則の定式」とロスによる「一応の義務」があげられ,現代に至っている。
義務論の特徴としては行為者相対性があり,功利主義が行為者中立的であるのとは対照的である。
問題点として
- 直観と乖離していることがある
- 義務の葛藤を解決できない
ことがあげられる。
義務の葛藤を解消する試みとして
- 完全義務と不完全義務の区分け(現代ではロバート・ヴィーチが採用)
- 作為と不作為の区分け(ウォレン・クインにより拡大)
- 意図と予見の区分け
などが行われてきた。
徳理論
徳理論は,行為が博愛精神や仁愛からなされていることを重視する。徳の構成要素として,プラトンは
- 知恵(φρόνησις :プロネーシス)
- 正義(δικαιοσύνη:ディカイオシュネー)
- 勇気(ἀνδρεία:アンドレイア)
- 節制(σωφροσύνη:ソープロシュネー)
を枢要徳としてあげた。*4
善の理論はアリストテレスを起源とする。アリストテレス*5によると,徳とは中庸の状態,フロネーシスが発揮された状態,心の調和した状態と解される。徳理論による善さの概念は,多様性,客観性,行為者相対性を特徴とする。フロネーシスは有徳者による手本を模倣することで習得することができるとされている。
正の理論としては,ハーストハウスの「すぐれた行為者理論」とスロートの「動機中心理論」があげられる。
問題点として
- 客観的な基準が立証できない
- 現実へと規則化できない
- 文化相対主義である
- 徳の葛藤を解決できない
などがある。
次回↓