「西洋美術の歴史」要約メモ #5 第2巻第Ⅱ部(第8~9章)
西洋美術の歴史2 中世I - キリスト教美術の誕生とビザンティン世界
- 作者: 加藤磨珠枝,益田朋幸
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/12/07
- メディア: 単行本
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第8章 聖堂装飾のシステム
ゲルマノス1世「教会史,もしくは神秘の観想」では,8世紀当時の聖堂建築の象徴性が論じられる。
バシリカ式聖堂において,壁面の形状にしたがい種々の装飾がなされた。イコンとナラティブの対比で考えると,身廊フリーズ壁面にはナラティブな図像,他壁面にはイコン的図像が配置されることが多かった。
予型論的思考の例:
- アブラハムの饗宴 ー 三位一体,受胎告知,聖餐
- ノアの洪水 ー 洗礼
- 燃え盛る炉の中の3人の少年 ー 洗礼
- キリスト降誕 ー 将来の洗礼 ー 石棺への安置(死)
イコノクラスム終結の前後に,「ギリシア十字式」という聖堂の形式が生じた。バシリカ式に比べ,壁面が複雑になり動線が増えることで,典礼的な配置が採用されるようになった。ビザンティン美術史家オットー・デムスによると,壁画は上下方向に3段階の位階性をもつとされる。
- 上:ドームとアプシス,イコン
- 中:ナラティブ
- 下:イコン
ここで,建造物の部位の象徴性について論じられる。
- ドーム:「天」を表象し,初めはキリスト昇天などが当てはめられた。9世紀以降は「パントクラトールのキリスト」がよく配置されるようになった。
- ドラム:ドームの下にある。昇天なら使徒が,パントクラトールなら旧約預言者が配置される。
- ペンデンティヴ/スクィンチ:受胎告知や降誕などの場面が配置される。
- アプシス:祭壇が置かれ,壁面には「聖母子」あるいは「聖母」が描かれる。
- アプシス下部:正教会の基を築いた神学者がよく配置される。
- 東壁:太陽が昇る側であり,受胎告知などの始まりに基づいた主題が配置されることが多い。
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西壁:太陽が沈む側であり,聖母の眠りなど終わりに基づいた主題が配置される。
絵画内において,キリストはさまざまな姿をとる。
- 幼児(インマヌエル) ー ロゴスの受肉
- 壮年 ー パントクラトール
- 老人 ー 日の老いたる者
第9章 ある修道院の物語
本章では,コーラ修道院の壁画からビザンティン人の心に迫る。コーラ修道院は6世紀に建てられたとされるが,今見れるのは12~14世紀にかけて再建されたものである。特に14世紀のテオドロス・メトキティスによる改築が大きい。1453年にオスマン帝国により首都が陥落すると,聖堂はモスクに改造され,多くのモザイクが破壊された。ここからは,残るモザイクから含意を読み取っていく。
ここで,鍵となる壁画を列挙する。
内ナルテクスにある「聖母伝」
- 「ヨアキムの献げ物を拒否するザカリア」
- 「アンナへのお告げ」
- 「金門の出会い」
- 「聖母誕生」
- 「聖母の最初の7歩」
- 「マリアを慈しむ両親」
- 「祭司たちに祝福されるマリア」
- 「聖母神殿奉納」:ここで将来のキリストの運命が予告される
- 「緋色の羊毛を受け取るマリア」
- 「杖の提出」
- 「聖母の結婚」
- 「マリアを家に連れ帰るヨセフ」
- 「井戸(泉)の受胎告知」
- 「ヨセフの出発と帰宅」
外ナルテクスにある「キリスト幼児伝」
- 「ヨセフの夢」
- 「ベツレヘムへの旅」
- 「聖母の住民登録」
- 「キリスト降誕」
- 「パンクラトールのキリスト」
- 「聖母子」
- 「聖アンナと聖母」:悲痛な表情の母子
- 「洗礼者ヨハネ」
- 「マギの旅」
- 「ヘロデ王の前のマギ」
- 「エジプト逃避」
- 「偶像の失墜」
- 「幼児虐殺」
- 「嘆く母たち」
- 「難を逃れるエリザベトとヨハネ」
- 「エジプトからの帰還」
- 「エルサレムに向かう12歳のキリスト」
ここまでで,幼児虐殺のサイクル,母の哀しみが強調されていることが見てとれる。
墓所礼拝堂の装飾
コーラを図像学的に読むと,「子を喪った親(特に母)の哀しみ(p566)」が浮かび上がると著者は考察する。
コーラ修道院を紹介したサイトを,以下に並べておく。
イスタンブールの世界遺産!カーリエ博物館でビザンティンモザイクの傑作に出会う | トルコ | LINEトラベルjp 旅行ガイド
モスクがそのまま博物館になった!イスタンブールの「カーリエ博物館」 | wondertrip
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