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「西洋美術の歴史」要約メモ #5 第2巻第Ⅱ部(第8~9章)

 

西洋美術の歴史2 中世I - キリスト教美術の誕生とビザンティン世界

西洋美術の歴史2 中世I - キリスト教美術の誕生とビザンティン世界

 

 

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8章 聖堂装飾のシステム

ゲルマノス1世「教会史,もしくは神秘の観想」では,8世紀当時の聖堂建築の象徴性が論じられる。

 

シリカ式聖堂において,壁面の形状にしたがい種々の装飾がなされた。イコンとナラティブの対比で考えると,身廊フリーズ壁面にはナラティブな図像,他壁面にはイコン的図像が配置されることが多かった。

 

予型論的思考の例:

  • アブラハムの饗宴 ー 三位一体,受胎告知,聖餐
  • ノアの洪水 ー 洗礼
  • 燃え盛る炉の中の3人の少年 ー 洗礼
  • キリスト降誕 ー 将来の洗礼 ー 石棺への安置(死)

 

イコノクラスム終結の前後に,「ギリシア十字式」という聖堂の形式が生じた。バシリカ式に比べ,壁面が複雑になり動線が増えることで,典礼的な配置が採用されるようになった。ビザンティン美術史家オットー・デムスによると,壁画は上下方向に3段階の位階性をもつとされる。

  • 上:ドームとアプシス,イコン
  • 中:ナラティブ
  • 下:イコン

 

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オシオス・ルカス修道院の壁画 https://worldheritagesite.xyz/contents/hosios-loukas/ より

ここで,建造物の部位の象徴性について論じられる。

  • ドーム:「天」を表象し,初めはキリスト昇天などが当てはめられた。9世紀以降は「パントクラトールのキリスト」がよく配置されるようになった。
  • ドラム:ドームの下にある。昇天なら使徒が,パントクラトールなら旧約預言者が配置される。
  • ペンデンティヴ/スクィンチ:受胎告知や降誕などの場面が配置される。
  • アプシス:祭壇が置かれ,壁面には「聖母子」あるいは「聖母」が描かれる。
  • アプシス下部:正教会の基を築いた神学者がよく配置される。
  • 東壁:太陽が昇る側であり,受胎告知などの始まりに基づいた主題が配置されることが多い。
  •  西壁:太陽が沈む側であり,聖母の眠りなど終わりに基づいた主題が配置される。

 

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アギア・ソフィア大聖堂にあるパンクラトールのモザイク https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Jesus-Christ-from-Hagia-Sophia.jpg

絵画内において,キリストはさまざまな姿をとる。

  • 幼児(インマヌエル) ー ロゴスの受肉
  • 壮年 ー パントクラトール
  • 老人 ー 日の老いたる者

 

9章 ある修道院の物語

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(左)コーラ修道院外観 (右)聖母子 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Virgin_Hodegetria_in_the_Theotokos_Mosaic_at_Chora_Church.jpg より

本章では,コーラ修道院の壁画からビザンティン人の心に迫る。コーラ修道院6世紀に建てられたとされるが,今見れるのは1214世紀にかけて再建されたものである。特に14世紀のテオドロス・メトキティスによる改築が大きい。1453年にオスマン帝国により首都が陥落すると,聖堂はモスクに改造され,多くのモザイクが破壊された。ここからは,残るモザイクから含意を読み取っていく。

 

ここで,鍵となる壁画を列挙する。

内ナルテクスにある「聖母伝」

  • 「ヨアキムの献げ物を拒否するザカリア」
  • 「アンナへのお告げ」
  • 「金門の出会い」
  • 「聖母誕生」
  • 「聖母の最初の7歩」
  • 「マリアを慈しむ両親」
  • 「祭司たちに祝福されるマリア」
  • 「聖母神殿奉納」:ここで将来のキリストの運命が予告される
  • 「緋色の羊毛を受け取るマリア」
  • 「杖の提出」
  • 「聖母の結婚」
  • 「マリアを家に連れ帰るヨセフ」
  • 「井戸(泉)の受胎告知」
  • 「ヨセフの出発と帰宅」

 

外ナルテクスにある「キリスト幼児伝」

  • 「ヨセフの夢」
  • ベツレヘムへの旅」
  • 「聖母の住民登録」
  • 「キリスト降誕」
  • 「パンクラトールのキリスト」
  • 「聖母子」
  • 「聖アンナと聖母」:悲痛な表情の母子
  • 「洗礼者ヨハネ
  • 「マギの旅」
  • ヘロデ王の前のマギ」
  • 「エジプト逃避」
  • 「偶像の失墜」
  • 「幼児虐殺」
  • 「嘆く母たち」
  • 「難を逃れるエリザベトとヨハネ
  • 「エジプトからの帰還」
  • エルサレムに向かう12歳のキリスト」

ここまでで,幼児虐殺のサイクル,母の哀しみが強調されていることが見てとれる。

 

 

 

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キリスト冥府降下

墓所礼拝堂の装飾

  • 「聖母賛歌作者」
  • 「キリスト冥府降下」:キリストはアダムのみでなくエヴァも救う
  • 最後の審判
  • 「祭壇の前のアロンと息子たち」
  • 「天使と子供」

 

 

コーラを図像学的に読むと,「子を喪った親(特に母)の哀しみ(p566)」が浮かび上がると著者は考察する。

 

コーラ修道院を紹介したサイトを,以下に並べておく。

イスタンブールの世界遺産!カーリエ博物館でビザンティンモザイクの傑作に出会う | トルコ | LINEトラベルjp 旅行ガイド

聖書の世界に囲まれて~カーリエ博物館に行ってみた感想

モスクがそのまま博物館になった!イスタンブールの「カーリエ博物館」 | wondertrip

 

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