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傷寒論と現代漢方との比較 #6 陽明病,少陽病

 

漢方原典 傷寒論の基本と研究―東洋医学入門必携

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#6では辨陽明脈證并治法より陽明病,辨少陽病脈證并治法より少陽病について扱う。

 

 

陽明病

陽明病について

187 陽明之為病,胃家實也。

解説

陽明病を一言でいうと「胃家実」で表される。具体的には,腹内部の病邪が結実することで,症状として便秘が生じる。それに伴ってうわ言,潮熱,腸骨脈沈実などを示す。治療は下剤を用いた攻下が中心となる。

 

少陽病があるときの対応

212 傷寒嘔多,雖有陽明證,不可攻之。

213 陽明病,心下硬滿者,不可攻之。

解説 

陽明病証があっても,少陽病証がある場合は下してはならない。

 

 

承気湯類について

それぞれの鑑別について(p265)

  • 調胃承気湯:大便が秘閉して急迫する場合に胃気を和する
  • 小承気湯:腹満して大便が通じない場合に胃気を和する
  • 大承気湯:熱が裏に結実し大便が硬い場合に裏を攻める 

 

調胃承気湯(太陽病中70)

215 陽明病,不吐不下,心煩者,可與調胃承氣湯。

 

 

大承気湯(一般用漢方製剤に含まれない),小承気湯

216 陽明病,脈遲雖汗出不惡寒者,其身必重,短氣腹滿而喘,有潮熱者,此外欲解,可攻裏也。手足濈然而汗出者,此大便已硬也,大承氣湯主之;若汗多,微發熱惡寒者,外未解也,其熱不潮,未可與承氣湯;若腹大滿不通者,可與小承氣湯,微和胃氣,勿令大泄下。

221 傷寒若吐、若下後,不解,不大便五六日,上至十餘日,日晡所發潮熱不惡寒,獨語如見鬼狀。若劇者,發則不識人,循衣摸床,惕而不安,微喘直視。(中略)讝語者,大承氣湯主之。

222 陽明病,其人多汗,(中略)大便必硬,硬則讝語,小承氣湯主之。

大承氣湯方:大黃四兩,苦寒,酒洗;厚朴半斤,苦溫,炙,去皮;枳實五枚,苦寒,炙;芒硝三合,醎寒。

小承氣湯方:大黃四兩;厚朴二兩,炙,去皮;枳實三枚大者,炙。

大承気湯(参考:ツムラ大承気湯エキス顆粒)

成分・分量

  • 大黄 2
  • 枳実 3
  • 厚朴 5
  • 芒硝 1.3

効果・効能

腹部がかたくつかえて、便秘するもの、あるいは肥満体質で便秘するもの。常習便秘、急性便秘、高血圧、神経症、食当り

 

小承気湯

成分・分量

  • 大黄 2-4
  • 枳実 2-4
  • 厚朴 2-3

効能・効果

比較的体力があり、腹部が張って膨満し、ときに発熱するものの次の症状: 便秘

解説

どちらも体力の充実した便秘を伴う腹部膨満に対して用いる。芒硝は硫酸ナトリウムの結晶で下剤として用いられる。大承気湯には芒硝が含まれていることから,小承気湯に比べてより作用が強い。

大承気湯にまつわる条文は多いが,ここでは省略する。

 

陽明病への適応

白虎湯(太陽病下183)

228 三陽合病,腹滿身重,難以轉側,口不仁而面垢,讝語,遺尿。發汗則讝語,下之則額上生汗,手足逆冷。若自汗出者,白虎湯主之。

解説

三陽合病とは,病が陽明位にあり,同時に太陽証と少陽証も示すものである。

 

白虎加人参湯(太陽病上26)

231 若渴欲飲水口乾舌燥者,白虎加人參湯主之。

解説

裏熱により津液が不足することで,口が乾き冷たい水を飲みたくなる状態に適応する。

 

猪苓湯

232 若脈浮發熱渴欲飲水小便不利者,豬苓湯主之。

233 陽明病,汗出多而渴者,不可與豬苓湯,(中略)。

豬苓湯方:豬苓,去皮,甘平;茯苓,甘平;阿膠,甘平;滑石,碎,甘寒;澤瀉,甘醎,寒;各一兩。

成分・分量

  • 猪苓 3-5
  • 茯苓 3-5
  • 滑石 3-5
  • 沢瀉 3-5
  • 阿膠 3-5

効能・効果

体力に関わらず使用でき、排尿異常があり、ときに口が渇くものの次の諸症:排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿、むくみ

解説

口渇にくわえ尿量減少がある場合,猪苓湯の適応となる。ひどい発汗に対しては猪苓湯ではなく白虎加人参湯を用いる。猪苓,茯苓,沢瀉は利水作用,滑石は清熱作用,阿膠は止血作用がある。

 

小柴胡湯(太陽病中99)

238 陽明病,發潮熱,大便溏小便自可胸脅滿不去者,小柴胡湯主之。

239 陽明病,脅下硬滿不大便而嘔舌上白胎者,可與小柴胡湯。上焦得通,津液得下,胃氣因和,身濈然而汗出解也。 

解説

少陽証が残っている場合は,先に小柴胡湯を用いてその外証を解く。

 

桂枝湯(太陽病上12)

242 陽明病脈遲,汗出多,微惡寒者,表未解

也,可發汗,宜桂枝湯。

 

麻黄湯(太陽病中35)

243 陽明病脈浮,無汗而喘者,發汗則愈,宜麻黃湯。

解説

表が解していない場合は,先に桂枝湯や麻黄湯対処する。

 

茵蔯蒿湯

 244 陽明病,發熱,汗出,(中略)不能發黃也。但頭汗出身無汗,(中略)小便不利渴引水漿者,此為瘀熱在裏身必發黃,茵蔯蒿湯主之。

269 傷寒七八日,身黃如橘子色,小便不利,腹微滿者,茵蔯蒿湯主之。

茵蔯蒿湯方:茵蔯蒿六兩,苦,微寒;梔子十四枚,擘,苦寒;大黃二兩,去皮,苦寒。

成分・分量

  • 茵蔯蒿 4-14
  • 山梔子 1.4-5
  • 大黄 1-3

効能・効果

体力中等度以上で、口渇があり、尿量少なく、便秘するものの次の諸症:じんましん、口内炎、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみ

解説

裏熱に伴う黄疸に適応する。成分生薬すべてに清熱作用があり,特に茵蔯蒿は利胆作用が強い。

 

麻子仁丸

256 (前略)大便則難,(中略)麻子仁丸主之。

麻仁丸方:麻子仁二升,甘平;芍藥半斤,酸平;枳實半斤,炙,苦寒;大黃一斤,去皮,苦寒;厚朴一斤,炙,去皮,苦寒;杏仁一斤,去皮尖,熬,別作脂,甘溫。

成分・分量

  • 麻子仁 4-5
  • 芍薬 2
  • 枳実 2
  • 厚朴 2-2.5
  • 大黄 3.5-4
  • 杏仁 2-2.5(甘草 1.5 を加えても可)

効能・効果

体力中等度以下で、ときに便が硬く塊状なものの次の諸症:便秘、便秘に伴う頭重・のぼせ・湿疹・皮膚炎・ふきでもの(にきび)・食欲不振(食欲減退)・腹部膨満・腸内異常醗酵・痔などの症状の緩和

解説

元条文には脈の記載があるが,麻子仁丸証の鑑別には不要とされる(p292)。小承気湯に麻子仁,杏仁,芍薬を加えた処方である。特にウサギの糞のようなコロコロした便に対して,麻子仁や杏仁が腸を潤すことで便通を良くする。芍薬は腹部の緊張を和らげる。

 

梔子柏皮湯

270 傷寒,身黃發熱者,梔子蘗皮湯主之。

梔子蘗皮湯方:梔子一十五箇,苦寒;甘草一兩,甘平;黃蘗二兩。

成分・分量

  • 山梔子 1.5-4.8
  • 甘草 1-2
  • 黄柏 2-4

効能・効果

体力中等度で、冷えはなく、ときにかゆみがあるものの次の諸症:湿疹・皮膚炎、かゆみ、目の充血

解説

茵蔯蒿湯に比べ,腹満や尿量減少がみられない軽度の黄疸に適応する。黄連解毒湯から黄芩と黄連を引き,甘草を加えた処方である。

 

少陽病

少陽病について

272 少陽之病,口苦、咽乾、目眩也。

273 少陽中風,兩耳無所聞目赤胸中滿而煩者,不可吐下,

274 傷寒,脈弦細頭痛發熱者,屬少陽。少陽不可發汗。

解説

はじめに少陽病の概要を示しているが,異論の多い項である。一般的には,往来寒熱,胸脇苦満,不欲飲食が少陽病の特徴とされる。(p305)

少陽病も中風と傷寒に分けられる。中風では聴力低下,目の炎症,胸の膨満感が,傷寒では脈弦細,頭痛,発熱が現れる。少陽証に対して吐かせたり発汗させたりしてはならない。

 

小柴胡湯(太陽病中99)

275 本太陽病,不解,(中略)脅下硬滿乾嘔不能往來寒熱,尚未吐下,脈沉緊者,與小柴胡湯

解説

少陽病に対する代表的処方。

 

278 傷寒,六七日,無大熱,其人燥煩者,此為陽去入陰故也。

解説

発熱がみられなくなり燥煩するものは,陰証に入っている。

 

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