「西洋美術の歴史」要約メモ #6 第3巻序章~第4章
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第3巻の概要
読了日:2019/04/06
レビュー:
『本書は,中世の後半に相当するロマネスクとゴシックの建築や美術を,今は失われてしまった当時の歴史的な環境のなかに返し,そこでどのように見られ,受けとめられていたかについて理解することを目指している(p22)』『本書は,〜従来の美術史本のように年代順とはなっていない。むしろ,さまざまな切り口で「中世とは何か」という問いかけを行うことによって,「中世」についての理解を深めることを目的としている。(p598)』/キーワード:まなざし,祈り,物質,終末,煉獄,霊魂,死後世界
目次:
序章
- 本書のねらい
- 中世とは何か
- ロマネスクを問い直す
第1章 歴史/物語
第2章 まなざし
- 中世の「まなざし」を蘇らせるために
- 大きな物語のなかのまなざし
- 目と心と身体を使って見る
- まなざしを誘惑する美術
- 神の「刻印」を魂に受け取る
第3章 祈り
第4章 物質
- イメージと「モノ」
- 聖遺物と美術
- 物質の「図像学」
第5章 中世の死生観
- 紀元千年の恐怖
- 聖堂に見る終末論
- 私審判と公審判
第6章 煉獄の形成と死者のための祈り
- 煉獄の形成
- 煉獄の表現
- 死者の祈りと葬送儀礼
- 往生術と四終
第7章 身体と霊魂
- 霊魂の伝統と表現
- キリストの身体
- 腐敗から復活へ
第8章 死後世界への旅
- 死後世界旅行記
- 死後世界の地誌
- 天界への上昇
終章 中世という宇宙
序章
ロマネスクとは何か
- Romanesqueとは,古代ローマ建築から派生した,質の劣ったもの(ウィリアム・ガン)
- romanはロマネスク様式を指す(シャルル・ド・ジェルヴィル)
-
ロマネスクとは,~12世紀を中心に,多くの場所でかなりの時差をともないながら多発的に進行した,多様きわまる建築と美術を総称するキャッチコピー(本書p45,ヴィリバルド・ザウアーレンダー)
ゴシックの出現について
ゴシックは北フランスとイギリスに及ぶ地域の広がりのなかで,活発な交流とともに徐々に形をなしていったのである(p54)
第1章 歴史/物語
キリスト教美術の特徴の一つに「タイポロジー」がある。タイポロジーとは,旧約聖書に記載される要素(予型)と新約聖書に記載される要素(対型)との間に何らかの関連性を見出すものである。一例としてアダムとイエスとの関連性がある,神により創造されたアダムとイヴが犯した原罪をイエスが磔刑となり贖うことで救済へと向かう。
中世の美術はただ中世にのみ属するわけではなく,古代からの連続した大きな物語としても解釈される。その例が2つ紹介される。
- サン・マルコ大聖堂のブロンズ製の馬は,もともと2~3世紀に作られたもので5世紀にコンスタンティノープルに遷移された。1204年の第4回十字軍ではコンスタンティノープルを略奪して,その時に得たブロンズ製の馬を設置したということである。
- 中世ローマでは,キリストのイコンを人々の行列により運ぶということが行われた。キリストのイコンは,始めラテラーノ宮殿(画像)にあるサンクタ・サンクトールムの祭壇上に設置されており,サンタ・マリア・マッジョーレ聖堂(画像,地図)まで運び,そこで聖母のイコンと対面させられる。ここでキリストのイコンはティトゥスの凱旋門を通過するのだが,これは70年のエルサレムからローマへのイコン遷移を再現している。
第2章 まなざし
ハル・フォスターによる「視覚的なものの差異」の議論は,中世美術を現代人が捉えることの困難をよく示している。
アウグスティヌス(注釈「創世記注解」「神の国」)は,視覚には3つの段階があると述べた。
- 物体的な視像
- 霊的視像
- 知性的視像
より上位の視覚を通して初めて見える世界は,中世美術において大きな関心を集めた。
中世後半の美術において,キリスト教美術にユダヤ教徒が登場するようになる。それまでキリスト教徒のまなざしを対象としていたものが,ユダヤ教徒をも対象とすることで「人類の救済」へと押し上げたといえる。
ウンベルト・エーコによると
『中世は感覚的に把握しうる美を道徳上拒否した時代だとする見解は,諸テクストを表面的に認識したに過ぎないばかりか,中世の心性について根本的に誤解している』(p171)
またベルナルドゥスがギョームに宛てた手紙に込められた非難からは,ロマネスク美術の発する感覚的な魅惑が感じとれる。 ゲルトルーディス・マグナの神秘体験からは,ヴェロニカの黙想における一体化のプロセスが読み取れる。
第3章 祈り
キリスト磔刑像は個人的祈りの主要な対象であった。ここでよく見られるキリスト像は,むき出しの裸体,磔になった際に右脇にできた傷口が特徴的である。
リーメンシュナイダーの「聖血の祭壇彫刻」からは,キリストの血が聖遺物として所有されていたことがわかる。
https://www.ab-road.net/europe/germany/rothenburg/guide/00905.html
また、杯を取り、感謝の祈りを唱え、彼らに渡して言われた。「皆、この杯から飲みなさい。これは、罪が赦されるように、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である。(マタイ26:27~28)
これをはじめとした祭壇周辺の装飾は,典礼と聖人信仰の両方において機能すると考えられる。
12世紀以降,「キリストの埋葬」「聖墳墓参り」などのモチーフが表現されるようになる。例えばシャルトル大聖堂西正面のフリーズには,「キリストの墓を訪れる聖女たち」を題材にした彫刻が施されている。
第4章 物質
中世美術は素材の多様性が特徴的である。それは聖書に書かれる天国像を想起させられる。
お前は神の園であるエデンにいた。あらゆる宝石がお前を包んでいた。ルビー、黄玉、紫水晶、かんらん石、縞めのう、碧玉サファイア、ざくろ石、エメラルド。それらは金で作られた留め金でお前に着けられていた。それらはお前が創造された日に整えられた。(エゼキエル書28:13)
例えば象牙は金属や石と比較して滑らかで温かい印象を与え,「トマスの不信」の像などで用いられた。
礼拝像が偶像であるかについて,トマス・アクィナスの理論によると
神の像に対する礼拝を成り立たせる本質的な根拠は,イメージとしての対象(神)との類似性なのであって,物質性はむしろそこから取り除かれるべき必要悪と理解される。~類似性によって神の像の記号としての根拠を保証するのが,ほかならぬキリストのそんざいである(p266)
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