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「西洋美術の歴史」要約メモ #7 第3巻第5~終章

 

 

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第5章 中世の死生観

デカメロン 上 (河出文庫)

デカメロン 上 (河出文庫)

 

 ボッカッチョ「デカメロン」の冒頭では,黒死病によるフィレンツェの惨状が記述されている。「紀元千年の恐怖」については,当時の修道士グラベールの記述からその時の危機と希望への変化が読み取れる。

ロマネスク期は,恐怖を経験した人々の新たな共同体形成の基盤に位置付けられる。ヨハネの黙示録に基づく「荘厳のキリスト」「最後の審判」「キリストの昇天」は,終末観と密接に結びつきたびたびモチーフとされた。やがてゴシック期に移行する中,万人の終末から個人の終末へ民主の関心が変化する。  

 

第6章 煉獄の形成と死者のための祈り

 煉獄(purgatorium)は天国と地獄の中間地帯に位置付けられる,魂の浄化の場所である。煉獄という表現は1170年頃カントル「秘蹟大全」で言明され,1274年7月の第2回リヨン公会議第4集会において明文化された。

 

煉獄を表現した作品として,

  • 1253~1296年「フィリップ美男王の聖務日課書」挿絵
  • 1435~40年「時祷書 葬儀と煉獄」
  • 1460年代「時祷書 聖堂内部の葬儀の光景」

などがある。そこでは詩篇116篇9節

命あるものの地にある限り,わたしは主の御前に歩み続けよう。 

から始まるテキスト(プラセボと呼ばれる),煉獄のイメージである火焔などが書かれている。

 

聖務日課書や時祷書を用いた祈りは中世を通じて定着する。「死者のための聖務日課」はそれらの最後に位置付けられ,「詩篇」と「ヨブ記」がもとになって構成される。

もうたくさんだ、いつまでも生きていたくない。

ほうっておいてください

わたしの一生は空しいのです。  

 

人間とは何なのか。

なぜあなたはこれを大いなるものとし これに心を向けられるのか。

朝ごとに訪れて確かめ 絶え間なく調べられる。

いつまでもわたしから目をそらされない。

唾を飲み込む間すらも

  ほうっておいてはくださらない。

人を見張っている方よ

わたしが過ちを犯したとしても

あなたにとってそれが何だというのでしょう。

なぜ、わたしに狙いを定められるのですか。

なぜ、わたしを負担とされるのですか。 

なぜ、わたしの罪を赦さず 悪を取り除いてくださらないのですか。

今や、わたしは横たわって塵に返る。

あなたが捜し求めても

  わたしはもういないでしょう。(ヨブ記7章16~21節)

 

エドワード証聖王,ルイ9世の死をモチーフとした作品から,キリスト教徒にとっての善き死が読み取れる。

 

15世紀の小冊子「往生術」には,悪魔の誘惑と天使の助言を通して死者の魂の導きが書かれている。ここから美徳と悪徳との戦い(プシコマキア)などのモチーフが引き出される。プシコマキアは4~5世紀のプルデンティウスの詩に始まり,中世後期には三対神徳と四枢要徳,七つの大罪に整理される。  

 

第7章 身体と霊魂

霊魂について,古代ギリシアではタレスに始まりガレノスに至るまで種々の論が展開された。これらがもととなり,中世では霊魂の表現が多様化する。特にヒルデガルドの幻視とそれをもととした諸活動は重要である。

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ヒルデガルト「スキヴィアス」挿絵(左)炎のような聖霊が,頭,心臓,胸の全体に降り注ぐ (右)三位一体の幻視

 

ロマネスクの時代に,十字架はキリストの磔刑像へと変化する。「勝利のキリスト」像やその原型と考えられる「ヴォルト・サント」像,また腰布だけの磔刑像などのバリエーションがあった。13世紀以降には「ピエタ」や「悲しみの人」などの死の様相を深めた磔刑像が現れるようになる。

 

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ルネ・ド・シャロンのトランジ https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Bar-le-Duc_-_Eglise_Saint-Etienne_-_Le_Transi_-191.jpgより

キリスト像の変化とともに,俗人の墓像にも変化がみられる。「トランジ」は死後の肉体変化を刻んだ墓碑像であり,中世に盛んにつくられた。中には過去に死亡した王の墓碑もあり,スペクタルとしての機能も果たした。ここでの腐敗表現には告解と謙遜の意が含まれ,復活を際立たせる。  

 

第8章 死後世界への旅

死後世界のイメージは古代ギリシャ神話とプラトンの哲学(特に「国家」のエルの物語)に始まる。またユダヤ教外典や偽典(例:「聖ペテロの黙示録」)は豊かな死後世界観に満ちている。6世紀以降の書物では,トゥールのグレゴリウス「フランク史」10巻や大グレゴリウス「対話篇」,ベーダ「英国民教会史」から死後世界観が読み取れる。

 

梯子は,煉獄から楽園を繋ぐ重要なモチーフである。

とある場所に来たとき、日が沈んだので、そこで一夜を過ごすことにした。ヤコブはその場所にあった石を一つ取って枕にして、その場所に横たわった。すると、彼は夢を見た。先端が天まで達する階段が地に向かって伸びており、しかも、神の御使いたちがそれを上ったり下ったりしていた。見よ、主が傍らに立って言われた。「わたしは、あなたの父祖アブラハムの神、イサクの神、主である。あなたが今横たわっているこの土地を、あなたとあなたの子孫に与える。(創世記28章11~13節,ヤコブの梯子)

 

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ヨアンネス・クリマクス「楽園の梯子」


教父時代には霊的実践の場として梯子が機能する。12世紀の修道院改革時代には,梯子は創世記と結びついて写本芸術において多様化する。この時代には天文学占星術も発達する。  

 

終章 中世という宇宙

神曲 地獄篇 (河出文庫 タ 2-1)

神曲 地獄篇 (河出文庫 タ 2-1)

 

 ダンテ「神曲」は地獄篇,煉獄篇,天国篇からなり,中世の総決算でありルネサンスの始まりとなる作品である。

 

 『静まり返った部屋でこの写本のページを開き,丹念に文字を読み,そしてイメージを見る。写本を手にした人々は,ページを繰るごとに展開する文字とイメージの世界にしだいに没入し,時に心躍らせ,時に内省し,その世界へと飛翔したに違いない。(p619)』  

 

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