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確率・統計の勉強 #2 確率漸化式

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藤田 岳彦「弱点克服大学生の確率・統計」: 

 

弱点克服大学生の確率・統計

弱点克服大学生の確率・統計

 

 

問題09 確率と漸化式より

 

 

問題

問題:正四面体ABCDの頂点Aに時刻0で粒子がいる。1秒ごとに確率1/6ずつ隣の頂点に移動するか,または確率1/2で同じ頂点にいるという移動を繰り返す。時刻nで粒子がAにいる確率{a_n}

 

 漸化式とは,数列において隣り合った項どうしの関係を示す式である。本問においては,各項が確率として表されている。

 

解法

大まかな流れを以下に示す。

  1. 全体像をつかむ
  2. 隣り合った項の関係を示す
  3. 漸化式を解く

1. 全体像をつかむ

文章をいくら追っていてもイメージがつかないので,まずは今の状況を図示してみる。

f:id:ryosuke_okubo:20190116181207j:plain

図1 状態遷移図(確率はAについてのみ記載)

 

状況が理解しやすくなったところで,例として次の場合について考えてみる。描かれた図と照らし合わせて考えてみてほしい。

問題:時刻1で粒子がAにいる確率{a_1},時刻2で粒子がAにいる確率{ a_2}

 

時刻1については, 同じ点への移動でしかAにいないので,{\displaystyle a_1 = \frac{1}{2}}

時刻2については,次の組み合わせが考えられる。右にそれぞれが起こる確率を示した。

  1. A→A→A {\displaystyle \frac{1}{2} \times \frac{1}{2}}
  2. A→B→A {\displaystyle \frac{1}{6} \times \frac{1}{6}}
  3. A→C→A {\displaystyle \frac{1}{6} \times \frac{1}{6}}
  4. A→D→A {\displaystyle \frac{1}{6} \times \frac{1}{6}}

よってこれらを足した値,{\displaystyle a_2 = \frac{1}{3}}

 

2. 隣り合った項の関係を示す

では次に時刻3について考えてみる...

 

A→A→A→A

A→A→B→A

A→A→C→A

A→A→B→A

A→B→A→A

A→B→B→A

...

 

いやもうかきたくない。

 

これ以上書き出したところで疲れるだけだ。ましてや時刻nについて,なんてとてもできそうにない。

 

そこで,一旦漸化式を作ってから一般式に直すことにする。いきなり全体像を表すことは無理でも,隣り合った項どうしの関係をつかむだけなら何とかなるだろうという発想である。都合上,時刻n+1をゴール点(A)として時刻nからの動きを表そうとすると,次の4つが考えられる。時刻0ではAにいて,

  1. 時刻nにAにいて,時刻n+1にAにいる(A→~→A→A)
  2. 時刻nにBにいて,時刻n+1にAにいる(A→~→B→A)
  3. 時刻nにCにいて,時刻n+1にAにいる(A→~→C→A)
  4. 時刻nにDにいて,時刻n+1にAにいる(A→~→D→A)

たった4つならどうにかなりそうだ。ここで時刻nにAにいる確率を{a_n}(あらかじめ定義済み),Bにいる確率を{b_n},以下同様に定義すると,

 

f:id:ryosuke_okubo:20190116185125p:plain

図2 an+1への推移

{\displaystyle a_{n+1} = \frac{1}{2}a_n + \frac{1}{6}b_n + \frac{1}{6}c_n + \frac{1}{6}d_n} 

 

これで漸化式の形になった。

 

3. 漸化式を解く

ではもう少し式を整理してみる。A→~→B→A,A→~→C→A,A→~→D→Aの3つは,どれもA→~→A以外→Aと言える。したがってこれらを一つにまとめることができて,

{\displaystyle a_{n+1} = \frac{1}{2}a_n + \frac{1}{6}(b_n + c_n + d_n)} 

ここで確率の和の定義より,

{a_n + b_n + c_n + d_n = 1 \Rightarrow b_n + c_n + d_n = 1 - a_n} 

よって次のように{a_n}のみの式に変換できる。

{\displaystyle a_{n+1} = \frac{1}{2}a_n + \frac{1}{6}(1 - a_n) = \frac{1}{3}a_n + \frac{1}{6}} 

あとは特性方程式を組み立てて,

{\displaystyle \alpha =  \frac{1}{3}\alpha + \frac{1}{6} \Rightarrow \alpha =\frac{1}{4}} 

 {\displaystyle a_{n+1} = \frac{1}{3}a_n + \frac{1}{6} \Rightarrow (a_{n+1} - \frac{1}{4})  = \frac{1}{3}(a_n - \frac{1}{4})} 

ここで{a_0 = 1}(移動しなければ必ずAにいる)より,数列{\displaystyle \{ a_n - \frac{1}{4} \} }は初項{\displaystyle a_0 - \frac{1}{4} = \frac{3}{4}},公比{\displaystyle \frac{1}{3}}なので,

{\displaystyle  a_n - \frac{1}{4} = \frac{3}{4}(\frac{1}{3})^n }

よって,

{\displaystyle  a_n = \frac{1}{4} + \frac{3}{4}(\frac{1}{3})^n}

 

発展 マルコフ連鎖

本問はマルコフ連鎖の代表的な例である。未来の状態が,現在の状態によってのみ決まる確率過程のことをマルコフ過程といい,そのうち離散的なものをマルコフ連鎖という。

今回はAについてのみ考えたが,全ての点における確率を示すのに推移確率行列を考えると便利である。推移確率行列はij成分にiからjに遷移する確率を入れることで表現される。

$$P = \begin{eqnarray}\left( \begin{array}{cccc}\frac{1}{2}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6} \\ \frac{1}{6}&\frac{1}{2}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6} \\ \frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{2}&\frac{1}{6} \\ \frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{6}&\frac{1}{2} \end{array}\right)\end{eqnarray}$$

これは時刻nから時刻n+1の推移を表している。もし時刻nから時刻n+2の推移を知りたければ,推移確率行列を2乗すればよい。

$$P^2 = \begin{eqnarray}\left( \begin{array}{cccc}\frac{1}{3}&\frac{2}{9}&\frac{2}{9}&\frac{2}{9} \\ \frac{2}{9}&\frac{1}{3}&\frac{2}{9}&\frac{2}{9} \\ \frac{2}{9}&\frac{2}{9}&\frac{1}{3}&\frac{2}{9} \\ \frac{2}{9}&\frac{2}{9}&\frac{2}{9}&\frac{1}{3} \end{array}\right)\end{eqnarray}$$

なお,この確率過程は以下の定常分布に収束する(途中式は省略)。

$$\pi = \begin{eqnarray}\left( \begin{array}{c}\frac{1}{4}&\frac{1}{4}&\frac{1}{4}&\frac{1}{4} \end{array}\right)\end{eqnarray}$$

つまりABCD全ての確率が1/4となる。これは時刻0から無限大の時間がたてば,今どの点にいるかは最初の点によらなくなってくることを示している。

参考:

確率漸化式 | 受験の月

参考書にはほどんどない確率漸化式 大学数学入試問題 | 京極一樹の数学塾

マルコフ連鎖の基本とコルモゴロフ方程式 | 高校数学の美しい物語

 

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